2025年4月から、すべての企業において「65歳までの雇用確保」が義務化されます。これにより、定年退職後も希望すれば65歳まで働き続けられる制度の整備が必要になります。高年齢者の雇用を支えるためのこの施策は、少子高齢化や労働力人口の減少といった社会背景を踏まえた重要な取り組みです。
この記事では、「65歳までの雇用確保」の制度概要、企業と労働者双方にとってのメリット・デメリット、そして制度導入にあたって企業が注意すべきポイントを、社会保険労務士の視点からわかりやすく解説します。
1. 高年齢者雇用安定法とは?
高年齢者雇用安定法(正式名称:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)は、年齢にかかわりなく働くことができる環境の整備を目的とした法律です。
2025年4月から、この法律の改正により、すべての企業に対し、65歳までの雇用確保措置が義務化されることになります。これまで努力義務であった65歳までの雇用確保が、義務となる点に注意が必要です。
2. 雇用確保措置の具体的内容
企業は以下のいずれかの措置を講じる必要があります:
- 定年の引き上げ(65歳未満→65歳)
- 定年廃止(年齢による定年制度そのものをなくす)
- 継続雇用制度の導入(希望者を65歳まで再雇用)
企業の多くは、現実的な選択肢として「継続雇用制度(再雇用制度)」を採用しています。これは、定年を60歳としたうえで、本人が希望すれば65歳まで再雇用する仕組みです。
3. 制度義務化の背景
■ 少子高齢化の進行
日本は急速に少子高齢化が進んでおり、労働力人口の確保が社会的課題となっています。
■ 公的年金の支給開始年齢の引き上げ
老齢基礎年金・厚生年金の支給開始年齢が段階的に65歳に引き上げられたことで、それまでの生活費の確保が課題に。
■ 高齢者の就業意欲の高まり
健康寿命の延伸や、社会参加を希望する高齢者が増えており、本人の意思で働き続けられる環境整備が求められています。
4. 会社にとってのメリット・デメリット
【メリット】
- 熟練労働者の知見を継承できる
- 労働力不足への対応
- 企業イメージの向上(ダイバーシティ経営の推進)
【デメリット】
- 人件費の増加(再雇用の賃金設計が重要)
- 若年層の登用機会が減る可能性
- 高齢者への業務負荷・健康管理の配慮が必要
5. 労働者(会社員)にとってのメリット
■ 経済的安定が得られる
再雇用や定年延長により、収入が継続されることで年金開始までの生活資金をカバーできます。
■ 社会とのつながりを維持できる
働くことで生活のリズムが保たれ、社会参加の意欲を維持しやすくなります。
■ セカンドキャリアの選択肢が広がる
60歳で完全に退職するよりも、65歳まで働きながら次のキャリアを模索する時間が持てます。
6. 企業が取るべき対応とは?
(1)制度設計と就業規則の見直し
- 再雇用制度を導入する場合、対象者や雇用条件の明確化が必要
- 就業規則への反映が必須
(2)高年齢者向けの業務設計
- 身体的負担の少ない業務への配置転換など、個々の状況に応じた配慮が求められます
(3)賃金制度の再構築
- 賃金カーブを再設計し、若年層とのバランスをとることが重要
(4)人事評価制度の整備
- 高年齢者を正当に評価するための人事制度の見直しも必要
7. 社会保険労務士ができる支援
社会保険労務士は、以下のようなサポートを行うことができます:
- 雇用確保措置に関する制度設計支援
- 就業規則や人事制度の改定サポート
- 高年齢者雇用に関する助成金活用アドバイス
- 労使間のトラブル予防と対応
中小企業にとっても負担を抑えつつ制度を整備する方法を提案できます。
8. まとめ
2025年4月からの「65歳までの雇用確保」義務化は、企業・従業員双方にとって大きな転換点です。社会の高齢化が進む中で、高年齢者の活躍を支える職場環境づくりが、今後ますます重要になります。
企業側としては、制度導入の準備を早めに進め、就業規則の見直しや人事制度の整備を行うことが求められます。
社会保険労務士として、こうした制度対応の支援を通じて、企業の持続的な成長と従業員の安定した就業環境の構築をお手伝いしてまいります。お気軽にご相談ください。
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