はじめに
近年、中小企業を中心に「社内預金制度」への関心が高まっています。従業員の福利厚生を充実させ、同時に会社の資金管理にも活用できる制度として注目されている社内預金制度ですが、導入にあたっては法律面や利率設定など、いくつかの注意点があります。
本記事では、社内預金制度とは何か、導入することで得られる効果、利率の適切な設定方法などについて、社会保険労務士の視点から解説します。
社内預金制度とは?
社内預金制度とは、企業が従業員の給与の一部を預かり、社内で運用・管理する制度です。これは労働基準法第18条で「社内預金」として規定されており、一定の条件下で合法的に実施できます。
従業員は給与の一部を任意に積み立てることができ、将来の出費や老後資金、住宅資金等に備えることができます。一方、企業にとっては、従業員の定着や資金繰りに活用できるという利点があります。
社内預金制度の導入メリット
1. 従業員の福利厚生向上
社内預金制度は、従業員の貯蓄を支援する仕組みです。給与天引きで自動的に積み立てられるため、無理なく資産形成ができ、将来への安心感につながります。特に若年層や金銭管理に不安を持つ従業員にとっては、有効な制度といえるでしょう。
2. 離職防止・定着率向上
長期で積み立てた預金は、退職時に一括支払いされるのが一般的です。これにより、従業員は長く勤務するインセンティブを持つことができ、企業側としては人材の定着につながります。
3. 企業側の資金運用
従業員の預金は企業内で管理されるため、一定の範囲内で企業の運転資金として活用できます。もちろん、利率の設定や安全性の確保は必要ですが、資金調達手段の一つとして捉えることも可能です。
注意すべき法的要件
労働基準法による届出義務
社内預金制度を導入するには、労働基準法第18条に基づき、労働基準監督署への届出が必要です。具体的には以下の書類の提出が求められます。
- 社内預金規程
- 利率の設定方法
- 預金の管理方法
- 預金通帳等の交付手続
無届出で制度を運用すると、法令違反となるおそれがあるため、導入前に専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
利率の設定とそのポイント
最低利率の基準
社内預金制度を導入する際には、一定の利率以上で利息を支払うことが義務付けられています。この「最低利率」は、日本銀行が定める預金等の平均利率を基準とし、概ねこれに0.5%を上乗せした水準となっています。
2025年時点では、おおよそ年利0.9%~1.0%程度が目安とされています。利率がこれを下回ると、労働者にとって不利益とされ、行政指導や制度の見直しが求められる可能性があります。
利率の変更方法
市場金利の変動に応じて、社内預金の利率も年に1回程度見直すことが望ましいとされています。利率変更には、労使協定の締結や就業規則の変更、従業員への周知など、適正な手続きが必要です。
社内預金の管理方法とリスク対策
管理の透明性がカギ
社内預金は企業が預かる性質上、管理の透明性と安全性の確保が求められます。定期的に通帳や明細を発行し、従業員に残高を通知することで信頼性が向上します。
また、万一の事態に備えて、社内預金専用の預金口座を設ける、あるいは保証制度(例:預金保険)に加入するなど、従業員保護策を整えておくことが重要です。
導入時のステップ
- 社内ニーズの確認(アンケートなど)
- 制度設計・規程の作成
- 労使協定の締結
- 労働基準監督署への届出
- 従業員への説明・同意取得
- 運用開始と定期的なフォローアップ
社内預金制度の導入には労務・法務の知識が不可欠です。社会保険労務士等の専門家と連携しながら、適切に準備・運用を進めることが成功のカギとなります。
まとめ:社内預金制度は企業と従業員の「信頼構築」に
社内預金制度は、企業と従業員双方にとってメリットがある制度ですが、その運用には法令遵守と慎重な設計が不可欠です。利率設定や管理体制の整備を適切に行い、従業員からの信頼を獲得することで、企業の成長や職場の安定につながります。
導入をご検討の際は、社会保険労務士など専門家の助言を受けながら進めましょう。
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