退職金の受け取り方によって、課税額が大きく変わることをご存知でしょうか?退職金は、長年の勤務に対する報酬として支払われる重要な資金ですが、税法上の優遇措置がある一方で、受け取り方次第では想定外の税負担が発生する可能性もあります。
この記事では、退職金にかかる税金の仕組みと節税のポイント、最も有利な受け取り方について、詳しく解説します。退職予定の方や、退職金制度を整備したい企業のご担当者様もぜひ参考にしてください。
1. 退職金にかかる税金とは?
■ 所得区分は「退職所得」
退職金は「退職所得」として所得税や住民税の課税対象になります。ただし、一般の給与所得とは異なり、退職所得控除や1/2課税の優遇措置が設けられており、非常に有利な課税方式となっています。
2. 退職所得の計算方法
退職所得は以下の式で計算されます。
退職所得 =(退職金 − 退職所得控除)× 1/2
■ 退職所得控除額の計算方法
退職所得控除額は、勤続年数に応じて以下のように定められています。
- 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(※最低80万円)
- 勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
たとえば、30年勤務した場合の退職所得控除は以下の通りです。
800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円
つまり、1,500万円までの退職金には課税されず、それを超える部分にのみ1/2課税が適用されます。
3. 税法上有利な退職金の受け取り方とは?
■ 【原則】一時金でまとめて受け取るのが有利
税法上、退職金は「一括で受け取る」ことが最も有利とされています。
その理由は以下の通りです。
- 退職所得控除と1/2課税がフル活用できる
- 他の所得と分離課税(他の年収とは切り離して課税される)
- 退職所得には住民税の軽減効果もある
■ 例:30年勤務で2,000万円を一括受給した場合
- 退職所得控除:1,500万円
- 課税対象額:(2,000万円 − 1,500万円)× 1/2 = 250万円
- 所得税・住民税はこの250万円に対して課税される
このように、一時金での受け取りは実質的に課税対象が大きく圧縮されるため、節税効果が非常に高いといえます。
4. 年金形式で受け取る場合の注意点
企業年金や確定拠出年金(iDeCoなど)などでは、退職金を年金形式で受け取る選択肢もあります。
この場合の所得区分は「雑所得」となり、次のような違いがあります。
区分 | 一時金(退職所得) | 年金形式(雑所得) |
---|---|---|
控除 | 退職所得控除あり | 公的年金等控除あり |
税率 | 1/2課税、分離課税 | 総合課税、他の所得と合算 |
税負担 | 低め | 場合によっては高くなる |
年金形式は毎年の所得と合算されるため、他の収入(給与や年金)が多い人は税負担が増える可能性があります。
5. 有利な受け取り方を選ぶためのポイント
① 一括受取が基本的に有利
大半のケースでは、退職金を一時金として一括受取する方が有利です。課税が軽くなるため、将来の資金計画にも有利に働きます。
② 退職年度の所得調整をする
退職金を受け取る年に、他に給与所得や不動産所得がある場合、雑所得の合算で税額が増える可能性があります。可能であれば、退職年は他の所得が少ない年に調整すると、節税効果が最大化されます。
③ 確定拠出年金の「併用」も検討
iDeCoや企業型DCの年金受給については、一時金と年金の併用受取が可能です。この場合も、それぞれの控除や税率を踏まえて最適な組み合わせを選ぶことが重要です。
たとえば:
- iDeCoの一部を退職所得扱いで受給(退職所得控除を活用)
- 残りを年金形式で数年に分けて受給(公的年金等控除を活用)
といったミックス型の戦略もあります。
6. 企業側が行うべき退職金制度の整備
退職金制度を整備する際には、税務上の扱いを意識した制度設計が求められます。
■ 社内規程に基づいた支給が前提
退職金が「退職所得」と認定されるには、社内就業規則や退職金規程に明記されている必要があります。恣意的な支給や謝礼金的な支出では、給与扱いとなってしまい、高い税率が適用されるリスクがあります。
■ 中小企業退職金共済の活用
中小企業であれば、「中退共」への加入により、節税しながら退職金原資を積み立てる制度を活用できます。掛金は全額損金扱いとなり、企業にとっても税務上のメリットがあります。
まとめ:退職金の受け取り方で税負担は大きく変わる
退職金は、その受け取り方によって税金の額が大きく変わる重要な資金です。特に、退職所得控除と1/2課税の優遇措置を活用した「一括受取」は非常に有利であり、多くの方にとって節税効果が高い方法といえます。
ただし、個々の事情によって最適な方法は異なります。複数の退職金が重なる場合や、他の収入との兼ね合いがある場合などは、専門家に相談の上で戦略的に受け取り方を設計することが重要です。
退職金制度の見直しや、従業員への説明支援が必要な場合は、お気軽に当事務所までご相談ください。
専門家の視点で、制度設計から税務アドバイスまでトータルにサポートいたします。
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