高年齢者活躍のための有益な制度設計及びその運用の注意点とは?

はじめに

少子高齢化の進行により、日本の労働市場は構造的な人手不足に直面しています。特に団塊世代の定年後も働きたいというニーズは高く、高年齢者(おおむね60歳以上)の活躍推進は、企業の持続可能性において極めて重要なテーマです。
この記事では、高年齢者の活躍を促進するための制度設計とその運用時の注意点について解説します。

1. 高年齢者の活用が求められる背景

1-1 労働力人口の減少

総務省統計局の調査によれば、15~64歳の生産年齢人口は年々減少しており、企業はこれまで通りの雇用モデルでは人材を確保できなくなっています。

1-2 高年齢者の就労意欲

「60歳を超えても働きたい」と考える人が増え、健康寿命の延伸もあいまって、定年退職後も就労を継続したい高年齢者が多く存在します。

1-3 法改正による影響

2021年4月から施行された改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会確保が「努力義務」とされるようになりました。今後はこの流れが「義務化」される可能性もあり、企業側の制度整備が急務です。

2. 高年齢者の活躍を促進する制度とは?

2-1 継続雇用制度の活用

最も一般的な制度が「継続雇用制度」です。これは定年後に嘱託社員や契約社員として再雇用する仕組みです。

ポイント:

  • 本人の希望に応じて原則再雇用
  • 雇用契約の更新を前提とした設計が望ましい
  • 同一労働同一賃金の観点から待遇の差に説明責任が生じる

2-2 高年齢者雇用給付金の活用

一定の条件を満たす場合、再雇用された60歳以上の労働者に対し、企業には高年齢者雇用継続給付、本人には高年齢求職者給付金が支給されます。

注意点:

  • 雇用保険への加入要件の確認
  • 労働時間が短すぎると対象外になる

2-3 業務再設計による柔軟な働き方の提供

業務の一部を切り出し、体力的に無理のない業務やアドバイザー的ポジションを設計することで、能力を活かしつつ持続可能な雇用が可能となります。

2-4 テレワークや短時間勤務の導入

高年齢者の特性を考慮し、時間的・空間的な制約に柔軟に対応できる制度を整備することも重要です。健康面や家庭との両立を支援する働き方を選択肢に入れましょう。

3. 制度運用上の注意点

3-1 就業規則と雇用契約書の整備

制度の導入に際しては、就業規則の改定と個別の雇用契約の明確化が必須です。

留意点:

  • 再雇用期間の設定(1年更新など)
  • 賃金・労働時間の明示
  • 処遇に関する不利益変更の説明義務

3-2 評価制度の見直し

若年層と同じ評価基準を適用するのではなく、高年齢者向けの貢献評価や経験重視の制度を導入することが効果的です。

例:

  • 後進育成やOJT指導への貢献
  • 安全管理や品質管理への寄与

3-3 健康管理と安全配慮

高年齢者の就労には健康リスク管理が重要です。

対策例:

  • 定期健康診断の強化
  • 勤務時間・作業内容の配慮
  • 熱中症対策・転倒防止策

3-4 ハラスメント対策

年齢を理由とした扱いや無配慮な言動は、エイジハラスメント(年齢差別)に該当する恐れがあります。全社的な啓発活動が必要です。

4. 高年齢者活用が企業にもたらすメリット

4-1 経験・技能の継承

長年の実務経験に基づく判断力や、顧客との信頼関係は貴重な企業資産です。人材育成にも好影響を与えます。

4-2 安定した労働力の確保

離職率が低く、突発的な退職が少ない点も高年齢者活用の大きな利点です。

4-3 多様性と職場の活性化

多世代共存型の職場は、柔軟な価値観の共有と相互尊重の文化形成に役立ちます。

5. 高年齢者雇用を成功させるポイント

項目内容
制度の明文化就業規則・再雇用規程の整備
柔軟な働き方の提供短時間勤務・在宅勤務・職務限定雇用など
処遇の納得性能力や職務に応じた賃金設定
評価制度年齢に偏らない公正な評価基準の策定
健康管理高年齢者特有の健康課題に配慮
コミュニケーション孤立させず、定期的な面談や意見交換を実施

まとめ:高年齢者の戦力化は企業成長のカギ

高年齢者は、経験・知識・安定性という強みを持つ重要な人材資源です。少子高齢化が進む中で、年齢に関係なく能力を発揮できる環境づくりは、企業の競争力維持に直結します。

適切な制度設計と運用によって、高年齢者が無理なく、意欲をもって働ける仕組みを構築することが、企業の未来を支える第一歩です。

当事務所では、高年齢者の雇用制度構築から運用支援、助成金の申請まで一貫したサポートを行っております。制度整備でお困りの際は、ぜひ社会保険労務士にご相談ください。

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