健康診断の重要性 ~受けさせる義務と受ける権利とは?~

~企業と従業員が守るべき“健康管理”の基本~

働き方改革や労働環境の改善が叫ばれる中、従業員の健康を守る「健康診断」の重要性は年々高まっています。

企業側には従業員に健康診断を受けさせる法的義務があり、従業員側にもそれを受ける権利と義務があります。しかし、現場では「忙しくて受けていない」「結果を放置している」といったケースも散見されます。

この記事では、社会保険労務士の視点から、「企業が健康診断を実施しなければならない理由」「従業員が受診すべき根拠」「受診結果の取り扱い方」などを、労働安全衛生法をもとにわかりやすく解説します。

1. 健康診断の目的とは?

健康診断は、従業員の健康状態を把握し、労働に起因する疾病の予防や早期発見、職場環境の改善を図るために実施されます。単なる形式的なチェックではなく、企業が安全配慮義務を果たすうえで欠かせない制度です。

特に、長時間労働やストレス過多による精神疾患、生活習慣病の増加など、現代の働き方は健康リスクと隣り合わせです。定期的な健康診断によって、これらのリスクを早期に察知し、適切な対処を行うことが求められています。

2. 健康診断の法的根拠 ~企業の“義務”とは?~

■ 労働安全衛生法に基づく義務

健康診断の実施義務は、労働安全衛生法第66条に規定されています。これにより、企業(事業者)は労働者に対し、以下のような健康診断を行うことが義務付けられています。

【主な健康診断の種類】

種類対象者実施義務
雇入時健康診断新たに雇用するすべての労働者(常時使用)雇入れ時
定期健康診断常時使用する労働者年1回以上
深夜業従事者健康診断深夜業務に従事する者6ヶ月ごと
特殊健康診断有害業務に従事する者規定に応じて

企業がこれらの診断を怠ると、労働基準監督署から**指導・是正勧告や罰則(50万円以下の罰金)**が科される可能性があります。

3. 健康診断を“受ける”ことは労働者の“権利”かつ“義務”

健康診断は、企業が従業員に提供する義務がある一方で、従業員自身が受ける義務もあることが、労働安全衛生法施行規則で定められています(第44条など)。

■ 従業員が健康診断を受ける意味

  • 健康を守る自己責任
    病気の早期発見・早期治療は、本人と家族の生活を守る第一歩です。
  • 周囲への配慮
    感染症などを早期に発見し、周囲に影響を及ぼさないようにすることも職場内のマナーです。
  • 職務継続の判断材料
    持病や体調変化が業務に支障をきたす前に、医師の判断を受けることが重要です。

■ 拒否は可能か?

基本的には「正当な理由がない限り拒否できない」とされており、企業は受診を促す義務があります。ただし、プライバシー配慮の観点からも、個別の事情に応じた柔軟な対応が求められます。

4. 健康診断結果の取り扱いと企業の責任

健康診断を実施するだけでは不十分です。結果の活用と、その後の対応も重要です。

【健康診断後の流れ】

  1. 結果の通知:従業員へ速やかに通知(努力義務)
  2. 有所見者への対応:医師の意見を聴取し、就業上の措置を検討
  3. 産業医との連携:必要に応じて産業医が助言
  4. 健康管理ファイルの保管:5年間の保存義務

特に「異常所見あり」の場合、企業は医師の意見を聴いた上で、就業制限や作業変更等の措置を講じる義務があります(労働安全衛生法第66条の4)。

また、長時間労働者に対しては、「ストレスチェック」や「医師による面接指導」も併用しながら、包括的な健康管理体制の構築が求められます。

5. 健康診断に関するよくある誤解と注意点

●「パートやアルバイトは対象外?」

労働時間や雇用期間によっては対象になります。
1週間の所定労働時間が正社員の3/4以上ある場合、社会保険適用対象と同様に、健康診断も原則として受診対象です。

●「業務時間外で受けさせればよい?」

原則として業務時間内に実施すべきです。やむを得ず業務外に実施する場合は、労働時間扱いや賃金支払いなどの配慮が必要です。

●「受けない社員がいても放置していい?」

企業は繰り返し受診を促す努力が必要です。放置した場合、労働者本人だけでなく、会社側の管理責任も問われかねません。

6. 社会保険労務士ができるサポートとは?

企業の健康管理体制の構築には、労働法令への深い理解が不可欠です。社会保険労務士は、次のような場面で実務的な支援を行うことができます。

  • 健康診断実施体制の整備支援
  • 衛生委員会や産業医との連携サポート
  • 就業規則への明文化アドバイス
  • メンタルヘルス対応・ストレスチェック制度の導入
  • 労働基準監督署からの是正勧告対応

また、「健康経営」の観点から、健康診断データを活用した職場改善や福利厚生施策の提案も可能です。

まとめ:健康診断は「企業の責任」と「従業員の権利・義務」

健康診断は、単なる年1回の行事ではなく、企業の法的義務であり、従業員の健康と命を守るための重要な仕組みです。未受診や結果放置の状態を放置すれば、労務リスクは高まり、企業の信頼や法的責任にも直結します。

企業側は、「受診しやすい環境づくり」や「就業規則の整備」「フォロー体制の構築」など、積極的な健康管理への取り組みが必要です。

社会保険労務士として、健康診断を“形だけ”で終わらせないための実務的な支援を通じて、安全で健康的な職場づくりをサポートいたします。お気軽にご相談ください。

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