労働保険の年度更新における注意点とは?ー締切り間近(7/10まで)

毎年6月から7月にかけて行われる「労働保険の年度更新」。これは、労災保険と雇用保険の保険料を確定・申告・納付するための重要な手続きであり、事業主には法的な義務があります。正しい知識と準備がないまま手続きを進めると、保険料の過不足が生じたり、行政指導の対象になることも。

この記事では、社会保険労務士の立場から、年度更新の基本から注意点までをわかりやすく解説し、労働保険 年度更新のポイントを押さえて、スムーズな対応を実現するための情報を提供します。

1. 労働保険の年度更新とは?

まず、「労働保険」とは、労災保険と雇用保険を総称したものです。これらの保険料は、事業主がまとめて申告・納付することになっており、毎年1回、その年度分の見込みと前年度の実績を元に保険料を調整する必要があります。これが「年度更新」です。

■ 年度更新の目的

  • 前年度の確定保険料を申告・納付
  • 当年度の概算保険料を申告・納付

■ 年度更新の時期

  • 毎年6月1日〜7月10日が原則(変動あり)

2. 年度更新の対象となる事業所

すべての事業主が対象になるわけではありません。労働保険に加入している「すべての事業所」が対象です。

■ 主な対象事業所

  • 労働者を一人でも雇っている事業所
  • 雇用保険適用事業所(パートやアルバイト含む)
  • 労災保険のみ適用の一人親方など

※法人代表者(社長・役員等)は原則として労働者に該当しませんが、**「特別加入制度」**を利用している場合は対象になります。

3. 年度更新の流れ

年度更新は、以下の流れで行います。

【年度更新手続きの流れ】

ステップ内容
1. 賃金総額の集計前年度(4月1日〜3月31日)の従業員全員の賃金を集計
2. 概算保険料・確定保険料の計算集計した賃金に保険料率を掛けて算出
3. 申告書の作成「労働保険概算・確定保険料申告書」を作成
4. 提出・納付所轄の労働基準監督署または電子申請で提出。保険料を納付

申告書の記載内容には注意が必要です。誤りがあると、訂正や再計算、延滞金の発生につながる場合があります。

4. 年度更新における5つの注意点

年度更新には毎年共通の注意点が存在します。以下の5点は特に重要です。

(1)賃金総額の定義を誤解しない

賃金には、基本給、各種手当(通勤手当、残業代、賞与など)を含む必要があります。
また、「現物給与」(住宅・社宅の貸与など)も含まれるケースがあるため、細かな取り扱いを確認する必要があります。

(2)役員報酬は対象外、ただし例外あり

法人の役員は原則として労働者ではないため、報酬は保険料の計算対象にはなりません。ただし、労働の対償として報酬を得ていると認められる場合や、労災保険の特別加入者は対象となります。

(3)パート・アルバイトも賃金総額に含める

短時間労働者であっても、労働者であれば賃金総額に含めます。「社会保険の対象外だから」と除外してしまうと、申告漏れになります。

(4)保険料率の確認ミスに注意

業種や事業内容によって労災保険の料率が異なるため、前年の料率をそのまま使うと間違いの元です。毎年最新の保険料率を確認しましょう。

(5)電子申請は便利だがミスに注意

年度更新は「e-Gov(イーガブ)」から電子申請が可能で、迅速な処理が可能です。しかし入力ミスや添付書類の不備で再提出となるケースもあるため注意が必要です。

5. 特に気をつけたいケース別注意点

以下のようなケースでは、より慎重な対応が求められます。

■ 新設法人・初めての年度更新

初年度は「概算保険料」のみを納付し、翌年が初めての確定申告となります。賃金集計や記載の仕方に迷うことも多く、社労士への相談を推奨します。

■ 休業・時短勤務者が多い場合

新型コロナウイルス感染症の影響で休業が多かった場合、雇用調整助成金の扱いなど、通常と異なる判断が必要になります。支給された助成金は保険料算定には含めないことに注意しましょう。

■ 出向・兼務のある事業所

複数の事業所にまたがって出向や兼務をしている社員がいる場合、どの事業所で賃金を計上するかはルールに沿って正確に対応する必要があります。

6. 年度更新と社労士のサポート

年度更新は、毎年の恒例業務ではありますが、事業所の規模や雇用形態の多様化によって年々複雑化しています。
社会保険労務士は、以下のような場面で事業主の手続きをサポートできます。

■ 社労士の主なサポート内容

  • 賃金集計方法の確認と指導
  • 正しい保険料の計算代行
  • e-Govを利用した電子申請代行
  • 特別加入手続きのサポート
  • 事後の是正・調査対応のアドバイス

特に、多くの従業員を抱える事業所や、複数拠点を持つ企業では、社労士に依頼することで大幅な業務効率化が可能となります。

7. 年度更新を怠った場合のリスク

年度更新を適切に行わないと、事業主は以下のような行政リスクを負うことになります。

  • 労働保険料の延滞金(年14.6%上限)の発生
  • 過少申告に対する過少申告加算金(10%)
  • 行政指導や監督署による是正勧告
  • 労災給付の支給制限

労働保険料は、従業員の雇用・安全を守るための財源でもあるため、制度に則った正確な手続きが企業の信頼につながるのです。

まとめ:年度更新は「毎年の義務」。だからこそ、正確に、確実に。

労働保険の年度更新は、事業主にとって「毎年必ずやらなければならない法的義務」です。しかし、単なるルーティン業務として流してしまうと、思わぬ誤りやリスクに繋がる可能性があります。

社会保険労務士は、こうした煩雑な労務管理の実務を専門的にサポートする国家資格者です。当事務所では、年度更新をはじめとした労務・社会保険手続きを丁寧にサポートしております。

「毎年の手続きに不安がある」「正しく処理できているか心配」といったご相談があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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