インフルエンザで会社を出勤停止になりました。この場合「有給」?「無給」?

~社会保険労務士が解説する賃金・休業手当・就業規則の考え方~

毎年冬になると流行するインフルエンザ。従業員からよくある相談の一つが、

「インフルエンザで会社から出勤停止を命じられました。この期間は有給休暇扱いですか?それとも無給ですか?」

というものです。

実はこの問題、法律で一律に決まっているわけではありません
判断を誤ると、企業側は労働基準法違反のリスク、従業員側は不利益な扱いを受ける可能性があります。

本記事では、社会保険労務士の視点から
インフルエンザによる出勤停止時の賃金の考え方、有給・無給の違い、休業手当の要否、就業規則の整備ポイント までを詳しく解説します。

1.インフルエンザで「出勤停止」になるケースとは?

まず、インフルエンザによる出勤停止には、大きく分けて次の2パターンがあります。

① 本人の体調不良により出勤できない場合

  • 発熱や倦怠感が強く、医師から「自宅療養」を指示された
  • 本人が自主的に欠勤した

② 会社が感染拡大防止のために出勤停止を命じた場合

  • 症状は軽いが、職場内感染を防ぐため会社が出勤停止を指示
  • 医師の診断書をもとに会社判断で自宅待機を命じた

この どちらに該当するかで、賃金の扱いが大きく異なります。

2.結論から言うと「有給か無給かはケースによる」

「インフルエンザ=有給になる」「出勤停止=無給になる」と単純に決まるわけではありません

判断のポイントは、

  • 欠勤の原因は誰にあるのか
  • 出勤できなかったのは「本人の事情」か「会社の判断」か

という点です。

3.本人の体調不良で欠勤した場合の扱い

■ 原則:無給(ノーワーク・ノーペイ)

インフルエンザにかかり、本人の体調不良で出勤できない場合は、
労働基準法上、原則として賃金の支払い義務はありません

これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。

■ 有給休暇を使うことはできる?

はい、従業員が希望すれば年次有給休暇を取得することは可能です。

ただし重要なのは、

  • 会社が一方的に「有給扱いにする」ことはできない
  • 有給休暇を使うかどうかは、あくまで労働者の意思

という点です。

4.会社命令による「出勤停止」の場合はどうなる?

ここが最もトラブルになりやすいポイントです。

■ 会社都合の休業に該当する可能性

インフルエンザに感染した従業員に対し、

  • 「症状は軽いが、念のため出勤停止」
  • 「周囲への感染防止のため自宅待機」

会社が判断して出勤を禁止した場合、これは 「会社都合の休業」 に該当する可能性があります。

■ 休業手当の支払い義務(労基法26条)

会社都合で労働者を休ませた場合、平均賃金の60%以上の休業手当 を支払う必要があります。

労働基準法第26条
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、
使用者は、休業期間中、当該労働者に対し、
平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

5.「感染症だから仕方ない」は通用する?

企業側からよくある誤解が、

「感染症なんだから不可抗力では?」

という考え方です。

しかし、インフルエンザは予見可能な感染症 であり、行政通達や判例でも、

  • 会社判断による出勤停止
    → 使用者の責に帰すべき事由に該当する可能性が高い

とされています。

6.医師の診断書がある場合の考え方

■ 医師が「就業不可」と判断した場合

  • 高熱や強い症状
  • 明確に就労が困難

この場合は、本人都合による欠勤 と判断され、無給扱い(有給取得は可)となるのが一般的です。

■ 就業可能だが会社が止めた場合

  • 症状は軽い
  • 医師から「出勤可能」と言われたが、会社が出勤停止

この場合は、会社都合の休業 と判断される可能性が高く、休業手当の支払いが必要になります。

7.就業規則に「出勤停止=無給」と書いてもいい?

結論から言うと、注意が必要です

就業規則に

  • 「感染症による出勤停止期間は無給とする」

と定めていても、その内容が 労働基準法に反する場合は無効 となります。

特に、

  • 会社命令による一律出勤停止
  • 休業手当の規定がない

場合は、トラブルになりやすいため要注意です。

8.実務で多いトラブル事例

■ ケース① 有給を強制された

「インフルエンザだから有給にしておくね」と会社が一方的に有給処理 → 違法の可能性

■ ケース② 無給にしたが休業手当を払っていない

会社命令の出勤停止にもかかわらず無給処理
労基法26条違反のリスク

9.企業が取るべき適切な対応とは?

社会保険労務士としておすすめする対応は以下の通りです。

① 出勤停止の「理由」を明確にする

  • 本人の体調不良か
  • 会社判断か

を記録として残す

② 就業規則に感染症対応を明記

  • 出勤停止の基準
  • 賃金・休業手当の扱い
  • 有給取得の手続き

を具体的に定める


③ 労使での説明・合意を丁寧に

一方的な判断はトラブルの元です。
事前説明と記録が重要です。

10.まとめ~インフルエンザ出勤停止時の賃金判断は慎重に~

インフルエンザによる出勤停止時の賃金は、

  • 本人都合か会社都合か
  • 医師の判断内容
  • 就業規則の定め

によって結論が異なります。

安易に「有給」「無給」と判断せず、労働基準法・就業規則・実態 を踏まえた対応が必要です。

感染症対策と労務管理を両立させるためにも、不安な場合は 社会保険労務士への相談 をおすすめします。

コメント

  1. 藤原真 より:

    この問題ですが、あるものは医師の判断、あるものは会社都合となるととても不公平な気がします。
    本人側にたってこの事を考えると、穿った見方ですが会社都合にするように仕向けることがいくらでも出来ます。

    会社は本人だけでなく、会社全体の健康を考える責任もあると思います。

    いかがでしょうか?

    • 田中 愼一 田中 愼一 より:

      インフルエンザによる出勤停止で、有給・無給の扱いが「医師判断」か「会社判断」かによって異なる現行制度は、不公平感を生みやすい仕組みです。
      ”本人”に責任がない感染症であるにもかかわらず、判断主体により賃金が左右される点は問題があります。
      ただし、会社には”本人”だけでなく職場全体の健康を守る安全配慮義務があり、出勤停止はその責務の一環です。だからこそ、判断の違いによる不利益を避けるため、社内制度の整備が重要だといえます。