預貯金の仮払い制度

~遺産分割協議成立前に故人の口座から葬儀費用を支払う方法~

相続が発生すると、銀行口座は凍結され、原則として遺産分割協議が成立するまで預金を引き出すことはできません。しかし、相続発生直後には葬儀費用、入院費の清算、公共料金の支払いなど、どうしても早急に現金が必要となる場面が多くあります。

そのような場合に利用できるのが 「預貯金の仮払い制度」 です。本制度は、平成30年7月の民法改正により創設された比較的新しい制度で、相続人が 遺産分割前でも一定額の預貯金を引き出せる 重要な仕組みです。

本記事では、ファイナンシャルプランナーの視点から
制度の概要、利用できる金額、手続きの流れ、注意点、活用すべきケース
について詳しく解説します。

■1.預貯金の仮払い制度とは?

預貯金の仮払い制度は、銀行口座が凍結されている状態でも、相続人が一定の範囲で預金の引き出しを可能とする制度です。

これは、相続開始直後の生活費や葬儀費用など “緊急性の高い出費” に対応するための仕組みであり、相続人の生活への影響を軽減する目的で導入されました。

制度は以下の2つで構成されます。

①家庭裁判所の仮分割仮処分(審判)による方法

→比較的多額の引き出しが可能
→家庭裁判所への申立てが必要

②金融機関の窓口での仮払い制度(民法909条の2)

→少額だが、簡易に引き出しが可能
→家庭裁判所の手続き不要

本記事では、実務で最も多く使われる 金融機関窓口での仮払い制度 を中心に解説します。

■2.引き出せる金額はどれくらい?

金融機関の窓口で利用できる仮払い制度では、引き出せる金額が法律で明確に決められています。

【引き出せる上限額(法律)】

以下の①と②のいずれも満たす必要があります。

① 口座残高 × 1/3

(口座ごと/金融機関ごとに計算)

② 1金融機関あたり最大150万円まで

●具体例

  • A銀行の口座残高:300万円
     →300万円 × 1/3 = 100万円(上限)
  • B銀行の口座残高:1200万円
     →1200万円 × 1/3 = 400万円
     ただし「150万円まで」の制限があるため、150万円が上限

複数の金融機関に口座がある場合、それぞれで引き出しが可能なため、
合計で300万円以上を引き出せるケースもあります。

■3.手続きに必要な書類と流れ

金融機関の窓口での仮払い手続きは、次のステップで進みます。

◎【必要書類】

以下は一般的な必要書類で、金融機関により追加書類を求められる場合があります。

  • 故人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の住民票または印鑑証明書
  • 遺産分割協議前であることの申立書(金融機関の書式)
  • 仮払いを請求する相続人の本人確認書類
  • 金融機関所定の請求書

※遺言書がある場合はその写しが必要

◎【手続きの流れ】

  1. 相続人が金融機関へ仮払い制度の利用を申し出る
  2. 必要書類を提出し、相続関係が確認される
  3. 金融機関が法的要件を確認し、引き出し上限額を計算
  4. 現金または振込で支払いを受ける

通常、書類に不備がなければ 1~2週間程度で引き出し可能 になることが多いです。

■4.葬儀費用の支払いに利用されることが多い理由

預貯金の仮払い制度は、実務上、葬儀費用の支払いに非常に役立ちます。
その理由は次の通りです。

◎【葬儀費用は相続発生直後に必ず発生する】

葬儀費用は一般的に 平均100~200万円前後 必要と言われており、遺族の負担は軽くありません。

◎【口座はすぐに凍結される】

死亡届が提出されると金融機関が死亡の事実を把握し、
口座が凍結されて引き出しができなくなります。


◎【仮払い制度は遺産分割協議成立前でも利用可】

葬儀後すぐに必要ですが、遺産分割協議の成立には通常数週間~数ヶ月かかります。
その間の支払い原資として、仮払い制度は非常に有効です。

■5.利用時の注意点

仮払い制度は便利な一方で、次の点に注意が必要です。

◎①「相続人の1人だけの独断利用」はトラブルの原因

引き出しは単独で可能ですが、相続人間で後に不公平感が生じる可能性があります。
事前に一言相談することが望ましいです。

◎②引き出した金額は最終的に遺産分割の対象

仮払いは「相続人の取り分」ではなく、あくまで 遺産の一部を仮に取り出す 行為です。

最終的な分配時に生前の支払いと同様に調整されます。

◎③金融機関ごとに手続きが違う

制度は法律で統一されていますが、運用は金融機関による差があります。

  • 「事前相談が必要」
  • 「戸籍の提出形式に細かなルールがある」
  • 「審査期間が長い」

など、事前確認が重要です。

◎④家庭裁判所の手続きを選ぶべきケースもある

引き出したい金額が150万円では足りない場合、
家庭裁判所での仮処分申立て を利用する選択もあります。

こちらは金額の制限がなく、実際の葬儀費用に合わせた請求が可能です。

■6.預貯金の仮払い制度を利用すべき人・ケース

次のようなケースで仮払い制度は非常に有効です。

  • 手元資金が不足して葬儀代を賄えない
  • 故人が一人暮らしで、生前の公共料金や家賃の支払いが必要
  • 入院費や介護費の未払いがある
  • 相続人間で遺産分割協議に時間がかかると予想される
  • 相続財産が預貯金に偏っている
  • 遺言書がなく、銀行が支払いに応じないケース

これらのケースでは、仮払い制度を利用することで相続人の負担を大きく減らすことができます。

■7.まとめ

預貯金の仮払い制度は、相続発生直後に資金が必要となる場面で非常に役立つ制度です。

◎本制度のポイント

  • 遺産分割前でも預金を引き出せる
  • 上限は「口座残高の1/3」と「150万円」の小さい方
  • 複数の金融機関で利用可能
  • 葬儀費用の支払いに特に有効
  • 最終的には遺産分割で精算される
  • 必要書類は多いが、手続きは比較的簡易

相続手続きが複雑になるケースでは、ファイナンシャルプランナーや司法書士、行政書士など専門家に相談することで、最適な制度選択とスムーズな相続対応が可能になります。

●預貯金の仮払い制度についてのご相談を承ります

「どの金融機関でいくら引き出せる?」
「どんな書類が必要?」
「家庭裁判所の手続きが必要か?」

など、具体的な状況に応じてサポートいたします。

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