1.最低賃金とは?~すべての労働者に適用される「賃金の下限」
「最低賃金」とは、国が定める労働者に支払わなければならない賃金の最低額を指します。
使用者(会社)は、労働者にこの金額以上の賃金を支払う義務があり、違反すると罰則(50万円以下の罰金)が科されることもあります。
最低賃金には次の2種類があります。
- 地域別最低賃金:都道府県ごとに定められる一般的な最低賃金
- 特定(産業別)最低賃金:特定の産業に適用される上乗せの最低賃金
多くの労働者には「地域別最低賃金」が適用されます。
毎年10月前後に改定されることが多く、令和7年度(2025年度)は全国平均で時給1,121円(過去最大の引上げ)になる見込みです。
2.「時給制」なら簡単、でも「月給制」はどう計算する?
最低賃金は「1時間あたりの金額」として定められています。
そのため、時給制の方であれば、単純に自分の時給が最低賃金を上回っているかを確認すれば問題ありません。
しかし、「月給制(固定給制)」の方の場合は、少し計算が必要です。
なぜなら、月給制は「月単位で決まっている金額」であり、これを時給換算しないと、
最低賃金を下回っているかどうかが分からないからです。
3.月給者の最低賃金計算方法
【ステップ1】 対象となる賃金を確認する
まず、最低賃金の計算に含める「賃金」とは、
毎月支払われる基本給と諸手当のうち、固定的なものが対象です。
✅ 含まれるもの
- 基本給
- 職務手当、役職手当、営業手当など(毎月一定額支給されるもの)
❌ 含まれないもの
- 通勤手当(交通費)
- 時間外手当・休日出勤手当
- 賞与・臨時手当
- 住宅手当・家族手当 など
※これらの除外項目を入れて計算すると誤りになりますので注意が必要です。
【ステップ2】 月給を時間単価に換算する
次に、月給を「1時間あたり」に換算します。
以下の計算式が基本です。
月給 ÷ 1か月の平均所定労働時間 = 時間当たり賃金
ここで使用する「1か月の平均所定労働時間」は、年間の労働時間を12か月で割って算出します。
一般的な週40時間労働(年間休日120日程度)の場合、
1か月あたりの平均所定労働時間は およそ173.8時間 とされています。
【ステップ3】 実際の計算例
例えば、東京都(令和7年度予定:1,226円)で、月給が28万円の社員の場合を考えてみましょう。
280,000円 ÷ 173.8時間 = 約1,611円/時
この場合、最低賃金1,226円を大きく上回っているため問題はありません。
しかし、例えば月給が20万円だった場合はどうでしょう。
200,000円 ÷ 173.8時間 = 約1,151円/時
この場合は、東京都の最低賃金1,226円より低いためアウトです。
もし地域が東京都以外(例:大阪府 1,177円、愛知県 1,140円など)の場合は、
地域ごとの最低賃金と比較して確認する必要があります。
4.「固定残業代」制度がある場合の注意点
最近は「固定残業代込みの月給」として募集する企業も増えています。
しかし、この場合、固定残業代部分は最低賃金の計算に含めることができません。
つまり、
「基本給部分」で最低賃金を上回っているかどうかが判断のポイントになります。
【例】
月給25万円(うち固定残業代5万円、基本給20万円)
→ 基本給20万円 ÷ 173.8時間 = 約1,151円/時
この場合、基本給のみで最低賃金を上回っていれば問題ありませんが、
もし地域の最低賃金が1,200円などに引き上げられた場合は、違反の可能性も出てきます。
5.最低賃金を下回ったらどうなる?
最低賃金を下回る給与を支払うと、
労働基準法違反となり、使用者には50万円以下の罰金が科される場合があります。
また、従業員側からの申告により、労働基準監督署が調査を行い、
会社に対して是正勧告や差額支払い命令が出ることもあります。
従業員にとっても、最低賃金を下回る状態を放置すると、
将来の社会保険料・年金・雇用保険の給付額にも影響します。
そのため、「月給だから安心」と思わず、自身の給与を一度チェックすることが大切です。
6.企業が行うべき対応~社会保険労務士がアドバイス
最低賃金の引き上げは、企業の人件費に直接影響します。
そのため、特に中小企業では次のような対応が必要です。
- 基本給や手当の賃金テーブルの見直し
- 固定残業代の設定内容の再検証
- 非正規社員との均衡待遇の整備
- 労使協定や就業規則の賃金規程改訂
また、厚生労働省の「業務改善助成金」を活用すれば、最低賃金の引き上げとともに生産性向上の取組みを支援する助成を受けられます。
社会保険労務士としては、こうした助成金の活用提案や、賃金体系の見直し支援、法令遵守体制の整備をサポートできます。
7.まとめ~「月給だから大丈夫」とは限らない
月給制の方にとって、最低賃金の確認は見落とされがちですが、
実は毎年の引き上げにより、「気づかないうちに下回っている」ケースも少なくありません。
最低賃金のチェックポイントは以下の3つです。
- 地域の最新の最低賃金を確認する(毎年10月頃改定)
- 月給を時間単価に換算して比較する
- 固定残業代・通勤手当・賞与などは含めない
自分の賃金が最低賃金を上回っているかどうか、
そして会社として法令に適合しているかどうかを確認することが、
働く人・雇う人双方にとって非常に重要です。
社会保険労務士は、こうした賃金計算の適正化、就業規則の見直し、助成金申請などを通じて、
企業の法令遵守と従業員の安心を支える専門家です。
最低賃金の改定期には、ぜひ一度、賃金体系の確認をご検討ください。

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